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静岡地方裁判所 昭和50年(ワ)409号 判決

原告 山下一郎 外一二八名

被告 静岡県

主文

一  原告らの各請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告ら

1  被告は、原告らに対し、それぞれ、別紙第二の請求金額欄記載の各金員、並びに別紙第二の未払賃金額欄記載の各金員に対する昭和四八年一一月二二日以降支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決並びに仮執行宣言

二  被告

主文同旨の判決

第二請求の原因

一  原告らは、いずれも、被告静岡県に勤務する公務員であつて、昭和四八年一〇月当時別紙第一の勤務先欄記載の各職場に勤務していた。

二  原告らは、いずれも、労働基準法並びに「職員の勤務時間・休日・休暇等に関する条例」(静岡県条例第三二号)に基づき、一年に二〇日の年次有給休暇(以下「年休」と略称する。)をとることができるものとされており、別紙第二の「年休指定日」「時間」欄記載の日時に年休をとるべく時季の指定をなしたうえ休んだ。

三  ところが、被告は、昭和四八年一一月二一日の給与支払日に、前項記載の日時に原告らが勤務につかなかつたとして、別紙第二の未払賃金額欄記載の金額の賃金カット(以下「本件賃金カット」という。)をなした。

四  しかし、年休権の行使は使用者の承認を得てはじめて認められるものではなく、年休をどのように利用するかは使用者の干渉を許さない労働者の自由であるから、本件賃金カットは労働基準法第三九条に違反し、同法第一一四条により附加金の支払が命ぜられるべきである。

五  よつて、原告らは、被告に対し、右未払賃金及びそれと同額の附加金の支払を求めると同時に、右未払賃金に対しては、給与支払日の翌日たる昭和四八年一一月二二日以降支払済みに至るまで、民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

第三請求原因に対する認否

請求原因一ないし三記載の事実は認め、同四及び五記載の主張は争う。

第四抗弁

一  本件賃金カットをなすに至つた経緯

1  原告らは、静岡県に勤務する一般職員及び単純労務職員七五二四名をもつて組織された静岡県職員組合(以下「県職」という。)の組合員である。

2  県職は、昭和四八年八月二日、県当局に対し、別紙第三記載の賃金確定についての要求(以下「賃金確定についての要求」という。)を提出した。しかして、県当局は、別紙第四記載のような日程で県職と交渉を重ね、その結果、県職の要求をある程度いれた改善措置を講じたが、初任給六か月期間短縮、行政職給料表七等級から六等級にわたる際六か月の昇給期間短縮、特別休暇等による昇給延伸の完全復元、一定号給に達した者を自動的に主任・主査とし、等級のわたりを行政職給料表について三等級にわたらせること等については、引き続き検討していく旨回答してきた。

3  ところが、県職は、右賃金確定についての要求を有利に進める手段として、昭和四八年九月二八日開催の第八〇回委員会及び同年一〇月九日開催の執行委員会と拡大執行委員会において、別紙第五記載の闘争方針を決定し、その一環として、一〇月二四日から三一日までの七日間に、一割ずつの休暇闘争(以下「本件割休闘争」という。)を行なうこととしたうえ、一〇月一七日付県職執行委員長名で、各支部長・支部役員・分会長及び本部執行委員宛に、右闘争方針を指示した。その結果、多数の組合員が、同年一〇月二四日から三一日までの七日間に、県職の指示に従つて本件割休闘争に参加し、年休を請求してきたので、被告は、うち延べ約一七〇名について、本件割休闘争に参加したものとして無断欠勤と認め、それに対応する賃金を支払わなかつたところ、そのうち、原告ら一二九名が、本訴を提起したのである。

4  なお、原告らが、本件割休闘争に参加し、年休を請求してきた月日・時刻、請求の時間、請求の理由、被告が休暇として認めない旨の意思表示をした月日・時刻は、別紙第六記載のとおりである。

二  本件賃金カットの有効性

1  そもそも、年休は、労働者に毎年一定期間労働から開放して精神的・肉体的休養を与え、労働力の維持培養に役立たせるためのものであり、労働者のためのものであると同時に使用者のためにも認められた制度であつて、労働者が使用者の指揮命令に従つてその労働力を提供するという正常な作業体制を前提とするものであり、使用者と対立抗争する争議行為の一手段として年休を利用することは許されない。

2  ところが、本件割休闘争は、県職が、賃金確定についての要求を有利に進めるための戦術として、一定割合の組合員を各支部・分会毎に割り当てたうえ、組織的・画一的に年休を請求させ、管理者側に時季変更権行使の時間的余裕を与えず、一方的に勤務関係から離脱させ、その結果業務の正常な運営を妨げることを目的とするものであり、原告らは、県職の指示に従い、年休を請求したうえ欠勤したのである。従つて本件割休闘争の実質は、年休権行使に名を藉りた同盟罷業の一態様であり、地方公務員法第三七条で禁止された争議行為に該当するものであつて、年休請求権が形成権であるか時季指定権であるかを論ずるまでもなく、年休制度と相容れないものであり、これを無断欠勤と認め、それに対応する賃金を支払わなかつた本件賃金カットには、何ら違法な点はない。

3  ちなみに、最高裁判所は、年休の利用目的は労働基準法の関知しないところであり、年休をどのように利用するかは、使用者の干渉を許さない労働者の自由であるとし、原則的に年休の利用目的は問わないとしながら、それに続いて、いわゆる一斉休暇闘争に触れ、その形式いかんに拘わらず、その実質が年休に名を藉りた同盟罷業にほかならないときは、本来の年休権の行使ではないことを認めており、完全に年休の利用目的が自由であるといつているわけではなく、その制度の趣旨目的から制約がある旨判示している(最高判昭四八・三・二民集二七・二・一九一〔以下「白石営林署判決」という。〕及び最高判昭四八・三・二民集二七・二・二一〇〔以下「国鉄郡山工場判決」という。〕参照。なお、右両判決の総称として、以下「三・二判決」ともいう)。なお、右三・二判決は、一斉休暇闘争のことを例示しているが、一斉であるかどうかによつて結論が違うのではなく、休暇を闘争の手段としているかどうかによつて、年休権の行使として認められる場合と否とに分かれるのである。

三  原告らの年休請求権の濫用及び信義則違反

1  年休は、労働者が使用者から賃金の支払いを受けながら休むことによつて、労働者には休養と教養、使用者には休暇後の能率増進という、労使双方の利益を計ることを目的として認められた制度であるから、その行使は右の目的に合致したものであることが必要であり、そのためには、労使関係が正常な状態にあることが前提である。

2  右のような年休制度の目的からいつて、組合員が闘争態勢に入り、使用者に対抗するための手段として、使用者から賃金の支払いを受けながら就労を拒否することは、年休制度の本質を逸脱したものであつて、信義誠実の原則に反し権利の濫用となる。されば、民間においても、組合が少数特定の組合員を指名して就労させないいわゆる指名ストについては、年休の名を藉りて行なわれたとしても、当然のこととして賃金が支払われないのである。

3  なお、三・二判決は、信義則や権利濫用について正面から判断していないことに、注意しなければならない。

第五抗弁に対する原告の反論

一  抗弁二、三記載の主張は争う。被告の主張は、三・二判決及び高松高等裁判所の昭五〇・一二・二五判時八〇九・九四判決(以下「徳島県職判決」という。)の趣旨からみて、認められない。

二  三・二判決は、年休請求権の性質につき注目すべき見解を示したが、本件で問題となるのは、右判決中、年休の利用目的に関し、当該労働者の所属する事業場での一斉休暇闘争に参加する場合は別として、他の事業場における争議行為等に休暇中の労働者が参加しても、当該年休の成否に影響するものではないという判示であり、これは他の事業場が同一の企業体であつても勿論同一である。ところで、ここでいう一斉休暇闘争というのは、労働者が、その所属する事業場において、その業務の正常な運営の阻害を目的として、全員一斉に休暇届を提出して、職場を放棄・離脱するものとみるならば、その実質は同盟罷業にほかならないので、この行動は、本来の年休権の行使ではないということである。ところが、原告らの年休の請求は、原告らが所属する事業場(勤務先)の事業の正常な運営の阻害を目的とするものではなく、そうであれば、三・二判決の趣旨に従えば、本訴において、原告らは、年休の利用目的が何であつたかを主張する必要も全くないのである。よしんば、それが県職の年末闘争の動員者としての行動をとつたり、自己の有する年休権を年内に消化するためのものであつたとしても、年休は完全に成立しているのであり、被告が賃金カットする何らの理由もない。

三  被告は、使用者との対立抗争の手段として年休を請求することは許されないし、当初からかかる目的のために年休を請求することは、信義則に反し権利の濫用であると主張する。けれども、年休の利用目的は労働基準法の関知しないところであり、年休をどのように利用するかは、使用者の干渉を許さない労働者の自由である。従つて、組合員が年休をとつて他の事業場の争議の応援に行つたからといつて、それが労働力の維持培養のために行使されなかつたとして、年休権の行使が違法になつたり無効になつたりするものではない。三・二判決は、労働者の所属事業場の事業の正常な運営を阻害する目的で、一斉休暇闘争をする場合は、年休権の行使は認められないとしているが、かかる場合でない限り、労働者の年休の使用目的が、使用者との対立抗争とか組合の統一された意思の下になされたからといつて、それが信義則違反や権利の濫用になるとはいえない。

第六証拠〈省略〉

理由

一  (当事者間で争いのない事実等)

請求原因一ないし三記載の事実は当事者間で争いがなく、抗弁一記載の事実は、原告らが明らかに争わないので、これを自白したものとみなす。

二  (本件賃金カットをなすに至つた経緯等)

右一の事実に、成立に争いのない乙第二号証、同第三号証の一・二、同第四号証の一ないし一八、同第五号証の一・二、同第六、七号証の各一、同第八・九号証、同第一〇号証の一、同第一一ないし一四号証、同第一五号証の一、同第一六号証、同第一七・一八号証の各一、二、同第一九ないし二八号証、同第二九号証の一ないし一三二号証、証人安間俊三、同安本芳輔、同袴田実の各証言を総合すれば、次の事実が認められる。

1  県職は、賃金確定についての要求を有利に進めるための戦術として、本件割休闘争を計画したのであるが、その内容は、昭和四八年一〇月二四日から三一日までの七日間(日曜日を除く)、連日にわたり、全組合員七五二四名の一割に相当する者(七五二名)に年休を請求させ、そのうち、一〇月二四日から二七日までの四日間は連日二〇〇名、同月二九日から三一日までの三日間は連日三五〇名の組合員を、本庁での坐り込みの動員に参加させ、残りの者(一〇月二四日から二七日までは五五二名、一〇月二九日から三一日までは四〇二名)には自宅等で休暇をとらせるというものであり、七日間に延べ五二六四名(752×7)の組合員に年休を請求させる計画であつた。

2  しかして、県職は昭和四八年一〇月一七日、県職執行委員長名で、各支部長・支部役員・分会長・本部執行委員宛に、本件割休闘争の実施を指令し、分会毎に全体で毎日一割の休暇が実施できるように計画を立て、職場討議のうえ「休暇闘争点検表」を作成して、支部書記局を通じて本部へ報告するように指示した。このようにして、県職は、予め一定の組合員を指定して県職執行委員長名の指令書(乙第二二号証)を交付したうえ、県の本庁及び出先機関のあらゆる職場に勤務する一割の組合員をして、七日間連日にわたり、組織的・画一的に年休を請求させることを計画したのである。

3  ところで、県職は、これまでも闘争時には、多数の組合員に指令を出して本庁での坐り込みの動員に参加させており、動員者(一〇〇名から一五〇名)は各自年休をとつて動員に参加していたのであるが、本件割休闘争のように、県職の方で予め一定の組合員を指定したうえ、七日間連日にわたり、組織的・画一的に年休を請求させる闘争戦術を計画したのは、今回が初めてであつた。そこで、事態を重視した県当局は、本件割休闘争の性質について、三・二判決に照らして検討を加え、自治省や労働省にも照会したうえ、昭和四八年一〇月二二日、総務部長名で、本庁の各部課長及び各出先機関の長等に対し、本件割休闘争は違法な争議行為であり、賃金カットの対象となるから、職員が右闘争に参加しないよう周知徹底を図るとともに、闘争期間中に年休を請求してきた職員に対しては、請求の理由を問い質すように指示した。

4  なお、県当局が、本件割休闘争参加者が賃金カットの対象となると判断したのは、右闘争そのものが、賃金確定についての要求を県職に有利に進めるための計画的・組織的な行動であり、予め指定しておいた一定の組合員をして、画一的に年休の請求をさせ、管理者側に時季変更権行使のいとまも与えないで一方的に勤務関係から離脱させ、その結果業務の正常な運営を妨げることを目的とするものであり、同盟罷業に値するものであつて、年休権行使以前の問題であると考えたからであり、県当局より照会を受けた自治省及び労働省の担当者も、県当局の見解を支持したからであつた。

5  結局、本件割休闘争の期間中に、延べ三五四二名(一日あたり全組合員の六・七パーセントの割合)の組合員が年休を請求し、勤務につかなかつたのであるが、県当局は、このうち一四四名(延べ人数では約一七〇名、一人で何回も年休を請求した者がいたため)について、本件割休闘争に参加した者と認め、賃金カットをなした。このように、本件割休闘争に参加しても賃金カットをされなかつた者も多数いたが、これは、県当局が、本件割休闘争に参加するために年休を請求したと明確に認められる者(年休請求の際、請求の理由をいわなかつたり、割休闘争に参加するためと述べた者等)のみを対象として、賃金カットをなしたからである。なお、本庁での坐り込みの動員には、当初の計画(一〇月二四日から二七日までは連日二〇〇名、一〇月二九日から三一日までは連日三五〇名)の六〇ないし七〇パーセントにあたる組合員が参加したが、定時退庁・超勤拒否闘争(別紙第五の四の2)は、直前になつて取りやめられた。

6  県当局による賃金カットに対し、県職は、昭和四八年一一月二四日、静岡地方検察庁に、当時の静岡県知事らを労働基準法第三九条・第一一九条第一号違反の疑いで告発したが、同地検は、昭和四九年一一月一五日、本件割休闘争は、目的・手段からみて業務の正常な運営を阻害する違反な争議行為であり、正当な年休権の行使とはいえないので、賃金カットは違法ではないとして、被告発人全員を不起訴処分にした。

三  (年休の性格とその利用目的による制限の有無)

1  労働基準法第三九条が規定する年休の権利は、同条第一・二項の要件の充足により法律上当然に労働者に生ずるものであり、その具体的な権利行使にあたつても、労働者がその有する休暇日数の範囲内で具体的な休暇の始期と終期を特定して、右の時季指定をしたときは、客観的に同条第三項但書所定の事由が存在し、かつこれを理由として使用者が時季変更権の行使をしない限り、右の指定によつて当然に年休が成立し、当該労働日における就労義務が消滅するものと解するのが相当であり、年休の成立要件として、労働者による「休暇の請求」や、これに対する使用者の「承認」という観念を容れる余地はないものといわなければならない。また、年休の利用目的は、労働基準法の関知しないところであり、休暇をどのように利用するかは、使用者の干渉を許さない労働者の自由であるとするのが、法の趣旨であると解される。(三・二判決参照)

2  しかしながら、労働者が、その所属の事業場において、その業務の正常な運営の阻害を目的として、全員一斉に休暇届を提出して職場を放棄・離脱する、いわゆる一斉休暇闘争の場合には、その実質が、年休に名を藉りた同盟罷業にほかならないので、その形式いかんに拘わらず、本来の年休権の行使ではないものというべく、従つて、これに対する使用者の時季変更権の行使もありえず、一斉休暇闘争の名の下に同盟罷業に入つた労働者の全部について、賃金請求権は発生しない、と解すべきである。けれども、年休権を有する労働者が休暇の時季指定をしたときは、使用者による適法な時季変更権の行使がない限り、当然に指定された時季に年休が成立するのであり、労働基準法第三九条第三項但書にいう「事業の正常な運営を妨げる」か否かの判断は、当該労働者の所属する事業場を基準として決すべきものであるから、右のような見地は、当該労働者の所属する事業場においていわゆる一斉休暇闘争が行なわれた場合についてのみ妥当しうることであり、他の事業場における争議行為等に休暇中の労働者が参加したか否かは、何ら当該年休の成否に影響するところはないものというべきである(三・二判決参照)。

3  このように、一斉休暇闘争の場合は、その実質が年休に名を藉りた同盟罷業にほかならないので、本来の年休権の行使ではなく、賃金請求権が発生しないことは、三・二判決が説くとおりである。ただ、三・二判決は、一斉休暇闘争の定義として、「労働者が、その所属の事業場において、その業務の正常な運営の阻害を目的として、全員一斉に休暇届を提出して、職場を放棄・離脱すること」と説いているが、右の「全員一斉に」とは、当該事業場所属の労働者の全員が一斉にという意味ではなく、休暇闘争参加者が全員一斉にという意味であり、一定割合の組合員が休暇届を出す場合(何割闘争と呼ばれる)も、「一斉に」それが提出される限り、一斉休暇闘争に含まれると、三・二判決は解しているものと考えられる。けだし、文字どおり、当該事業場所属労働者全員が一斉に休暇を請求する場合のみが、一斉休暇闘争であるとするならば、当該事業場所属労働者の一人でも休暇を請求しなければ、一斉休暇闘争ではなくなるという、三・二判決が予想していない結論になつてしまうからである。要するに、組合側が、自己の主張を貫徹するため、争議行為の一手段として、予め指定しておいた一定の組合員をして、計画的・組織的に全員一斉に年休を請求させて一方的に勤務関係から離脱させ、その結果、当該組合員所属の事業場における業務の正常な運営を妨げることを目的とする行為が、三・二判決にいう一斉休暇闘争であり、かかる行為は、年休に名を藉りた同盟罷業にほかならず、年休権行使以前の問題であるから、使用者の時季変更権行使の有無に拘わらず、一斉休暇闘争の名の下に同盟罷業に入つた労働者の全部について、賃金請求権が発生しないのである。

四  (本件賃金カットの効力について)

1  前記一、二の事実によれば、県職は、賃金確定についての要求を有利に進めるための戦術として、本件割休闘争を計画したのであり、その内容も、県の本庁及び出先機関の全職場における業務の正常な運営を妨げることを目的として、県職の方で予め一定の組合員を指定したうえ、七日間連日にわたり、全職場の一割の組合員をして、組織的・画一的に一斉に年休を請求させ、一方的に勤務関係から離脱させようというものであり、結局、本件割休闘争の期間中、県のあらゆる職場における延べ三五四二名(一日あたり全組合員の六・七パーセントの割合)もの組合員が年休を請求し、勤務につかなかつたのである。従つて、前記三で認定したところによれば、本件割休闘争は、三・二判決にいう一斉休暇闘争であり、年休権行使に名を藉りた同盟罷業にほかならず、年休権行使以前の問題であるから、県の管理者側の時季変更権行使の有無に拘わらず、一斉休暇闘争の名の下に同盟罷業に入つた県職組合員の全員について、賃金請求権が発生しないものというべきである。

2  尤も、原告らは、原告らの年休の請求は、原告らが所属する事業場(勤務先)の事業の正常な運営の阻害を目的とするものではない旨主張し、前記一、二の事実によれば、本件割休闘争参加者中一部の者は、年休をとつたうえ本庁での坐り込みの動員に参加しており、また、本件割休闘争の目的として、年休消化の促進という表題も掲げられている。けれども、本件割休闘争の主たる目的は、年休消化の促進ということではなく、賃金確定についての要求を組合側に有利に進めるためであり、県当局より組合側に有利な回答を引き出すため、県の本庁及び出先機関の全職場における業務の正常な運営を妨げることを目的として、本件割休闘争を実施したのであり、年休をとつて本庁での坐り込みに参加した者も、他の事業場における争議行為に参加する目的で年休を請求したのではなく、本件割休闘争に参加し、自己所属の事業場における業務の正常な運営を妨げる目的で年休を請求したのであつて、以上のことは、前掲乙第六号証の一(県職の機関紙)に、「交渉せぬ県当局に期限つき解決要求、解決せねば実力行使で迫る、坐り込みや一割休暇の七日間」という表題の下で、「賃金確定についての要求が、県当局の不誠意によつて一〇月下旬に入つても解決しない場合には、一割ずつの休暇闘争を含む実力行使によつて、早期解決を県当局に迫る」(要旨)と記載されていることからも明らかである。

3  また、原告らは、三・二判決(白石営林署判決・国鉄郡山工場判決)及び徳島県職判決の趣旨からみて、被告の主張は認められない、と主張する。けれども、白石営林署判決は、林野庁白石営林署に勤務する職員が、気仙沼営林署で行なわれた処分撤回闘争に参加するため、年休を請求した事案であり、国鉄郡山工場判決は、国鉄郡山工場に勤務する職員が、岩沼駅を拠点とする時限ストにピケ要員として参加するため、年休を請求した事案であり、徳島県職判決は、県の出先機関に勤務する職員(五名)が、本庁中庭において行なわれた勤務時間内(一時間)職場集会のピケ要員として参加するために、年休を請求した事案であり、同判決中の中央病院に勤務する一職員を除いては、いずれも、年休を請求した職員が所属する事業場では、一斉休暇闘争は勿論のこと、いかなる態様の争議行為も行なわれていなかつたのである。ただ、同判決中の中央病院に勤務する一職員の場合は、当該職員の所属する中央病院においても一時間の時限ストが行なわれ、同病院勤務の組合員約一〇〇名が右時限ストに参加したのであるが、本庁中庭でのピケ要員に参加した右一職員以外の職員は、全て年休を利用せずに無断欠勤したうえ、右時限ストに参加しているのであり、同判決は、中央病院所属の一職員についても、その年休権の行使は、本庁でのピケ要員に参加するためであり、中央病院での時限ストに参加するためのものではない旨、判断している。これに対して、本件割休闘争は、県職が、県の本庁及び出先機関の全職場における業務の正常な運営を阻害することを目的として、予め一定の組合員を指定したうえ、組織的・画一的に年休を請求させて一方的に勤務関係から離脱させようというものであり、本件割休闘争に参加した者も、自己の所属する事業場における業務の正常な運営を阻害する目的で年休を請求したのであるから、三・二判決(白石営林署判決・国鉄郡山工場判決)及び徳島県職判決の事案とは、年休権行使の目的・態様が著しく異なるものである。

4  結局、本件割休闘争は、三・二判決で言及されている一斉休暇闘争であり、三・二判決の趣旨からみても、本件賃金カットは有効なものであるといわなければならない。

五  (結論)

してみれば、原告らの被告に対する本訴各請求は、いずれも理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条・第九三条第一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 松岡登 人見泰碩 紙浦健二)

(別紙第一~第四省略)

別紙第五 賃金確定についての要求を有利に進めるための闘争方針

一 三者(県職・静岡県教職員組合・静岡県高等学校教職員組合)共闘名で、県当局に対し、早急に交渉を開くよう要求し、誠意ある交渉によつて遅くとも一〇月二三日までに要求を解決するよう、文書で強く申し入れる。

二 一〇月一一日から二三日までの間、県当局と精力的に団交を行なつて交渉を煮つめ、これに並行して、所属長交渉や、職場オルグ、署名やハガキ、ステッカーなどの職場活動を強める。

三 一〇月一六日に、原則として早期時間外に、賃金確定についての要求を勝ち取るための決起集会を、各支部毎に行なう。

四 交渉での解決の努力にも拘わらず、県当局の不誠意によつて解決しない場合には、次の実力行使によつて早期解決を県当局に迫る。

1 一割ずつの休暇闘争(一〇月二四日から三一日まで)。賃金確定についての要求実現と年休の消化を促進させることを目的に、七日間一割ずつ(動員参加者を含む。)の休暇闘争を行なう。

2 定時退庁・超勤拒否(一〇月二七日・二九日・三〇日・三一日)。賃金確定についての要求実現の意思表示とあわせて、超勤しなくても仕事ができる人員増を要求して、定時退庁又は超勤拒否の闘いを行ない、土木・土地改良・林業関係職場では、現場手当五〇〇〇円を支給させる要求をあわせて行なう。

3 各部門の闘いの強化。浜松保健所の移管反対。県立三病院の協定遵守、人員増要求等の闘い。国費職員の身分移管と賃金格差是正の闘い。その他、各部門別の特殊勤務手当、人員増等の闘い。

4 三者共闘による連日五〇〇名の座り込み(一〇月二四日から三一日まで)。

解決期限切れの一〇月二四日からは、連日五〇〇名の坐り込み行動で県当局に解決を迫る。県職は、一〇月二四日から二七日までの四日間連日二〇〇名、一〇月二九日から三一日までの三日間連日三五〇名の動員で闘う。

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